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輪廻転生の神話は、西洋の人々をも魅了して止みません。

神学教義に反するキリスト教圏でさえ、それを受け入れる人は増えています。




やがて、行きつけの小さな書店の前に立っている自分を見出す。
それは古びた建物であり、内に包蔵するのも、同様に古びた書物である。
持主は奇妙な男、前世紀の生きた遺物である。
このあくせくした時代は、ほとんどかれを必要としないが、
かれもまた同様に、この時代を必要としてはいない。
珍しい、人に知られていないことに詳しく、珍書や古書のみを扱っている。
学問のわき道や、道を外れた事柄については、
書物が与え得る限りの並々ならぬ知識をわがものとしている。
私は時おり、ぶらりとこの古い店にやって来て、
かれとそれらのことを話し合うのがすきなのだ。
私は店に入ってかれに挨拶をする。
しばらくの間、子牛の皮で製本された書物の黄ばんだページをめくったり、
色あせた折りたたみ本を近々とのぞき込んだりしている。 
一冊の古びた書物が私の注意を惹く。
ちょっと面白そうに思われるので、私はそれをもっと注意深く調べる。
眼鏡をかけた店の主人は私の関心に眼をとめ、
例によって、その書物の主題―輪廻―についての議論である、
と自分が想像しているものをやり始める。
老人はいつもの通り議論をひとり占めにする。
かれはこの本の著者よりも詳しく、
その馴みの無い学説の賛否両論について知っている様子で、長々としゃべる。
このことについて述べている諸々の古典に精通しているのだ。
突然、私は、店の向うの隅に、一人の男の動く気配をきき、ふりかえって、
やや高価な書物のおいてある奥の小部屋を隠す暗がりから、 
一個の背の高い人影が現れるのを見る。
見なれぬ人はインド人だ。
かれは貴族らしい身のこなしでわれわれの方に歩いて来、店の主人と向き合う。
「わが友よ」と、かれは静かに言う、
「邪魔することを許して下さい。
君が話していた問題には、私も非常に興味を持っているものだから、
君の言うことを聞かずにはいられなかったのです。
いま君は、人間はこの世にくり返し生まれ変って来るものだというこの思想を、
最初に述べている古典の著者たちの言葉を引用しておられる。
あの哲学的なギリシア人や賢明なアフリカ人や、
初期のキリスト教の神父たちの中の心の深い人々は、
この学説をよく理解していた、ということは私も認めます。
しかし、この思想は、ほんとうはどこで生まれたのだと君は思いますか?」
かれは一瞬、間をおくけれど、返事を待ってはいない。
「こう言うことを許して下さい。」とかれは微笑しつつ続ける、
「古代世界において転生説を最初に認めたのは誰か、
ということになると、インドに行かなければなりません。
それは遠い古代においてすでに、私の国の人々の間では主要な教義だったのです。」
かれの少しばかり教訓的な感じのするこの宣言は、
カウンターの向うにいる老いた紳士には気にいらない。
実際、それに対する強硬な反論が提出される。
「どうしてそんなことがあり得ましょう―キリスト教以前の時代、
東地中海の諸都市が文化と文明の中心として栄えていた時に? 
古代の最高の知性は、
アテネやアレキサンドリヤを含むこの地域に生きていたのではありませんか。
ですからたしかに、彼らの思想が南方にまた東方に伝えられて、
ついにインドに達したのでしょう。」と、懐疑的な発言が出る。
インド人は寛大に微笑する。
「そうではなかったのです。
実際に起ったのは、君の主張とは全く反対の事実だったのです。」
「まあ!あなたは、進歩的な西洋が、
その哲学を遅れている東洋から受けなければならなかった、
とまじめにおっしゃるのですか。
そんなことはあり得ませんよ!」と本屋の主人は忠告する。
「なぜあり得ないのですか。
君のアプレイウスをもう一度読んでご覧なさい。
わが友よ、そして、
ピタゴラスがインドに来てバラモンたちの教えを受けた経緯をお学びなさい。
それから、かれがヨーロッパに帰った後に、輪廻の学説を教えはじめたことに注目なさい。
これはほんの一例にすぎません。
私は他の例も知っています。
遅れた東洋という君の言葉をきくと可笑しくなりますよ。
幾千年の昔、
君たちの国の人々などは、まだそんな問題があるということさえも知らなかった頃に、
われわれの国の賢者たちは、最も深遠な問題を思索していたのです。」
かれはプツリと話をとめ、われわれをじっと見つめて、
自分の言葉が相手の心に落着くのを待っている。
本屋の主人は少々困惑しているらしい。
私は、この老人がこんなに黙り込んだり、
これほどはっきりと他者の知的権威に感銘を受けたことを見せたのを、かつて見たことがない。


ポール・ブラントン「秘められたインド」




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